わらがよい》をなす遊冶郎等のいはゆる猪牙船《ちよきぶね》を乗り込ませしところにして、「待乳沈んで梢のりこむ今戸橋、土手の相傘、片身がはりの夕時雨、君をおもへば、あはぬむかしの細布」の唱歌のいひ起しは、正しくはこの渠のことをいへるなり。今もなほ南岸の人家に往時《むかし》の船宿のおもかげ少しは残れるがなきにあらず。
○待乳山は聖天の祠あるをもて墨堤より望みたる景いとよし。あはれとは夕越えて行く人も見よの茂睡《もすい》の歌の碑は知らぬ人もなく、……の多き文章を嘲つて、待乳山の五丁の碑ぢやアあるめえし、と某先生が戯れたまひしその碑の今に立てるもをかし。こゝの舞台は隅田川を俯視《ふし》すべくして、月夜の眺望《ながめ》四季共に妙に、雪のあしたに瓢酒《ひさござけ》を酌んで、詩を吟じ歌を案ぜんはいよ/\妙なり。仙骨あるものは登臨の快を取りて予が言の欺かざるを悟るべし。待乳山の対岸のやゝ下に
○三囲《みめぐり》祠あり。中流より望みてその華表《とりい》の上半のみ見ゆるに、初めてこれを見る人も猜《すい》してその三囲祠たるを知るべし。この祠の附近よりは川を隔てながら、特《こと》に近※[#二の字点、1−2−22
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