る道を工夫した事も修業した事もないといふ事を示す。混雑、不体裁や不便宜がよいといふ道理はない。
 これはたゞ物の置き方の話であるが、物の積み方もさうで、小さい物を下にして大きい物を上に積めば、その結果は甚だ宜しくない。これ位の僅な事は考へるまでもなく誰でも承知してゐることであるが、実際は小さいものゝ上に大きい物を重ねる様な真似を屡《しば/\》演ずるものである。さうして菊判の本の下へポケット、ブツクを蔵つて了つて、俺の手帳が無くなつたと呟き出すことは、往々にして有り勝ちな事である。これは寔《まこと》に些細の事であるが、さてさういふ些細の事から時々大きい事が起るものである。
 これ等は物の扱ひ方といふ迄であるが、さて亦その上に物を扱ふにつけての心がけといふものがある、この心がけの段になると、仲々出来てゐる人は少い。物を扱ふ心がけに於ては、何処までもその物を愛し、重んじ、その物だけの理や、強さや、必要さやを尽させるのが正当である。この心がけが足りないと、物をしてその必要を尽す間もなく、その力を出す間もなく、その美しさを保たせずして終らせて了ふといふ事になる。
 例えば、一本の筆でも、これを扱
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