ふに道を以てせなければ、直《すぐ》に用に立たなくなる。一挺のナイフでも、林檎を剥《む》いた儘、之を拭はずに捨てゝ置けば直に錆び腐つて、用ひられなくなる。一ツの鋸でも、素人といふものは、使つてへらす[#「へらす」に傍点]より、扱ひ方が悪くて、無用のものにして了ふ方が多い。一ツの茶碗、一ツの土瓶でも、之を扱ふ道を得ないと直に廃物となる。鉄瓶の如き堅いものすら水の強《したゝ》かに入つてゐるのを五徳の上に手荒く置くやうにすれば、やはり破損して水が洩るやうになる。一丁の墨、一箇のペンもその扱ひやうに依つては、充分に役立つに拘らず、何程の効も為さずして終つて了ふ。機械の如き、扱ひ方の如何、接する心がけの良否《よしあし》で非常な差を生ずる。時計の如き、捲くべき時間に必ずネジを捲き、これを正常に扱へば、十年なり、十五年なり、楽にもつものを、或時は捲き、或時は捲かず、或時は手荒く取り扱ふ時は、直《すぐ》壊《こは》れて、無用のものとなる。時計より一段進んだ船舶用のクロノメートルに至つては一段の心がけが必要である。若し、クロノメートルが狂ひ出すと、大洋中で船の位置を知る事が不能になる。クロノメートルの価は僅
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