ひである。若し袴を逆にはいたり、刀を右に差したりして、それで何でも関《かま》はぬと云つて居る人があれば、明かに、其人は心理的欠陥を有してゐる。さういふ人は朋友としても余り有難くない人である。況《ま》してさういふ人に使はれたり、さういふ人を使つたりするといふ事は考へ物である。何故と云へば、その人は横紙破りで、我ばかり強いといふ性格を示してゐるので、平たく申せば非常識の人間であるからである。
 帽子や袴の事は誰でも知つてゐて、そんな事をするものもないが、一段進んで見るとそれに似た事で色々の接し方がある。例えば、日本家屋の部屋といふものは大抵は方形亦は矩形で、丸いのだの三角のだのは殆ど見当らぬ。それ故に、その部屋の内の色々の物の置き方も俗に云ふ畳の目なり[#「目なり」に傍点]に置けば都合が宜しいのである。然るに四角の火鉢を一ツ置くにしても、亦、机、本箱、煙草盆其他のものを置くにしても畳の目[#「目」に傍点]に従ふやうに置かぬ人が仲々多い。さう云ふ具合に置くと、室内は直に、乱雑、混乱、不体裁と、従つて不便を生じるものであるが、さて其処に気が注《つ》かないと誠に善い性格の人でも、その人が物に接す
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