っそり汝《きさま》やって見ろよと譲ってくれればいいけれどものうとの馬鹿に虫のいい答え、ハハハ憶《おも》い出しても、心配そうに大真面目くさく云ったその面がおかしくて堪りませぬ、あまりおかしいので憎っ気もなくなり、箆棒《べらぼう》めと云い捨てに別れましたが。それぎりか。へい。そうかえ、さあ遅くなる、関わずに行くがよい。さようならと清吉は自己《おの》が仕事におもむきける、後はひとりで物思い、戸外《おもて》では無心の児童《こども》たちが独楽戦《こまあて》の遊びに声々|喧《かしま》しく、一人殺しじゃ二人殺しじゃ、醜態《ざま》を見よ讐《かたき》をとったぞと号《わめ》きちらす。おもえばこれも順々|競争《がたき》の世の状《さま》なり。
其三
世に栄え富める人々は初霜月の更衣《うつりかえ》も何の苦慮《くるしみ》なく、紬《つむぎ》に糸織に自己《おの》が好き好きの衣《きぬ》着て寒さに向う貧者の心配も知らず、やれ炉開きじゃ、やれ口切りじゃ、それに間に合うよう是非とも取り急いで茶室|成就《しあげ》よ待合の庇廂《ひさし》繕えよ、夜半《よわ》のむら時雨《しぐれ》も一服やりながらでのうては面白く窓|撲
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