首を垂《た》れながら歩行《ある》いて居るを見かけましたが、今度こっちの棟梁《とうりょう》の対岸《むこう》に立ってのっそりの癖に及びもない望みをかけ、大丈夫ではあるものの幾らか棟梁にも姉御にも心配をさせるその面《つら》が憎くって面が憎くって堪《たま》りませねば、やいのっそりめと頭から毒を浴びせてくれましたに、あいつのことゆえ気がつかず、やいのっそりめ、のっそりめと三度めには傍へ行って大声で怒鳴ってやりましたればようやくびっくりして梟《ふくろ》に似た眼で我《ひと》の顔を見つめ、ああ清吉あーにーいかと寝惚声《ねぼけごえ》の挨拶《あいさつ》、やい、汝《きさま》は大分好い男児《おとこ》になったの、紺屋《こうや》の干場へ夢にでも上《のぼ》ったか大層高いものを立てたがって感応寺の和尚様に胡麻を摺《す》り込むという話しだが、それは正気の沙汰か寝惚けてかと冷語《ひやかし》をまっ向からやったところ、ハハハ姉御、愚鈍《うすのろ》い奴というものは正直ではありませんか、なんと返事をするかとおもえば、我《わし》も随分骨を折って胡麻は摺って居るが、源太親方を対岸に立てて居るのでどうも胡麻が摺りづらくて困る、親方がの
前へ
次へ
全143ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング