なられぬか、少しもお前の料簡が妾《わたし》の腹には合点《のみこめ》ぬ、よくまあ思案し直して親方様の御異見につい従うては下されぬか、お前が分別さえ更《か》えれば妾がすぐにも親方様のところへ行き、どうにかこうにか謝罪《あやまり》云うて一生懸命精一杯、打《ぶ》たれても擲《たた》かれても動くまいほど覚悟をきめ、謝罪って謝罪って謝罪り貫《ぬ》いたらお情深い親方様が、まさかにいつまで怒ってばかりも居られまい、一時の料簡違いは堪忍《かに》して下さることもあろう、分別しかえて意地|張《ば》らずに、親方様の云われた通りして見る気にはなられぬか、と夫思いの一筋に口説くも女の道理《もっとも》なれど、十兵衛はなお眼も動かさず、ああもう云うてくれるな、ああ、五重塔とも云うてくれるな、よしないことを思いたってなるほど恩知らずとも云わりょう人情なしとも云わりょう、それも十兵衛の分別が足らいででかしたこと、今さらなんとも是非がない、しかし汝《きさま》の云うように思案しかえるはどうしても厭、十兵衛が仕事に手下は使おうが助言《じょごん》は頼むまい、人の仕事の手下になって使われはしょうが助言はすまい、桝組《ますぐみ》も椽配
前へ 次へ
全143ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング