われたればこそ今日のようなお諭し、我も汝が欲かなんぞで対岸《むこう》にまわる奴ならば、我《ひと》の仕事に邪魔を入れる猪口才《ちょこざい》な死節野郎《しにぶしやろう》と一釿《ひとちょうな》に脳天|打《ぶ》っ欠かずにはおかぬが、つくづく汝の身を察すればいっそ仕事もくれたいような気のするほど、というて我《おれ》も欲は捨て断《き》れぬ、仕事は真実どうあってもしたいわ、そこで十兵衛、聞いてももらいにくく云うても退《の》けにくい相談じゃが、まあこうじゃ、堪忍して承知してくれ、五重塔は二人で建ちょう、我を主にして汝不足でもあろうが副《そえ》になって力を仮してはくれまいか、不足ではあろうが、まあ厭でもあろうが源太が頼む、聴いてはくれまいか、頼む頼む、頼むのじゃ、黙って居るのは聴いてくれぬか、お浪さんも我《わし》の云うことのわかったならどうぞ口を副《そ》えて聴いてもらっては下さらぬか、と脆《もろ》くも涙になりいる女房にまで頼めば、お、お、親方様、ええありがとうござりまする、どこにこのような御親切の相談かけて下さる方のまたあろうか、なぜお礼をば云われぬか、と左の袖は露時雨《つゆしぐれ》、涙に重くなしながら
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