とてもそれは同じこと、さらにあるべき普請ではなし、取り外《はぐ》っては一生にまた出逢うことはおぼつかないなれば、源太は源太で我が意匠ぶり細工ぶりを是非|遺《のこ》したいは、理屈を自分のためにつけて云えば我はまあ感応寺の出入り、汝はなんの縁《ゆかり》もないなり、我は先口、汝は後なり、我は頼まれて設計《つもり》までしたに汝は頼まれはせず、他《ひと》の口から云うたらばまた我は受け負うても相応、汝が身柄《がら》では不相応と誰しも難をするであろう、だとて我が今理屈を味方にするでもない、世間を味方にするでもない、汝が手腕《うで》のありながら不幸せで居るというも知って居る、汝が平素《ふだん》薄命《ふしあわせ》を口へこそ出さね、腹の底ではどのくらい泣いて居るというも知って居る、我を汝の身にしては堪忍《がまん》のできぬほど悲しい一生というも知って居る、それゆえにこそ去年|一昨年《おととし》なんにもならぬことではあるが、まあできるだけの世話はしたつもり、しかし恩に被《き》せるとおもうてくれるな、上人様だとて汝の清潔《きれい》な腹の中をお洞察《みとおし》になったればこそ、汝の薄命《ふしあわせ》を気の毒とおも
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