いても、知らせて下さらぬうちは無益《むだ》な苦労を妾《わたし》はします、お上人様は何と仰せか、またのっそりめはどうなったか、そう真面目顔でむっつりとして居られては心配で心配でなりませぬ、と云われて源太は高笑い。案じてもらうことはない、お慈悲の深い上人様はどの道|我《おれ》を好漢《いいおとこ》にして下さるのよ、ハハハ、なあお吉、弟を可愛がればいい兄きではないか、腹の饑《へ》ったものには自分が少しは辛くても飯を分けてやらねばならぬ場合もある、他《ひと》の怖《こわ》いことは一厘ないが強いばかりが男児《おとこ》ではないなあ、ハハハ、じっと堪忍《がまん》して無理に弱くなるのも男児だ、ああ立派な男児だ、五重塔は名誉の工事《しごと》、ただ我《おれ》一人でものの見事に千年|壊《こわ》れぬ名物を万人の眼に残したいが、他の手も知恵も寸分交ぜず川越の源太が手腕《うで》だけで遺《のこ》したいが、ああ癇癪《かんしゃく》を堪忍するのが、ええ、男児だ、男児だ、なるほどいい男児だ、上人様に虚言《うそ》はない、せっかく望みをかけた工事を半分他にくれるのはつくづく忌々《いまいま》しけれど、ああ、辛いが、ええ兄きだ、ハハハ
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