腑に浸み透って未練な愚痴の出端もないわけ、争う二人をどちらにも傷つかぬよう捌《さば》きたまい、末の末までともによかれと兄弟の子に事寄せて尚《とうと》いお経を解きほぐして、噛《か》んで含めて下さったあのお話に比べて見ればもとより我は弟《おとと》の身、ひとしお他《ひと》に譲らねば人間《ひと》らしくもないものになる、ああ弟とは辛いものじゃと、路《みち》も見分かで屈托の眼《まなこ》は涙《なんだ》に曇りつつ、とぼとぼとして何一ツ愉快《たのしみ》もなきわが家の方に、糸で曳《ひ》かるる木偶《でく》のように我を忘れて行く途中、この馬鹿野郎|発狂漢《きちがい》め、我《ひと》のせっかく洗ったものに何する、馬鹿めとだしぬけに噛《か》みつくごとく罵《ののし》られ、癇張声《かんばりごえ》に胆を冷やしてハッと思えばぐ※[#小書き平仮名わ、350−下−10]らり顛倒《てんどう》、手桶《ておけ》枕に立てかけありし張物板に、我知らず一足二足踏みかけて踏み覆《かえ》したる不体裁《ざまのな》さ。
尻餅《しりもち》ついて驚くところを、狐憑《きつねつ》[#ルビの「きつねつ」は底本では「きつねつつ」]きめ忌々《いまいま》しい、
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