様が恨めしい、尊《たっと》い上人様のお慈悲は充分わかっていて露ばかりもありがとうなくは思わぬが、ああどうにもこうにもならぬことじゃ、相手は恩のある源太親方、それに恨みの向けようもなし、どうしてもこうしても温順《すなお》に此方《こち》の身を退《ひ》くよりほかに思案も何もないか、ああないか、というて今さら残念な、なまじこのようなことおもいたたずに、のっそりだけで済ましていたらばこのように残念な苦悩《おもい》もすまいものを、分際忘れた我《おれ》が悪かった、ああ我が悪い、我が悪い、けれども、ええ、けれども、ええ、思うまい思うまい、十兵衛がのっそりで浮世の怜悧《りこう》な人たちの物笑いになってしまえばそれで済むのじゃ、連れ添う女房《かか》にまでも内々|活用《はたらき》の利かぬ夫じゃと喞《かこ》たれながら、夢のように生きて夢のように死んでしまえばそれで済むこと、あきらめて見れば情ない、つくづく世間がつまらない、あんまり世間が酷《むご》過ぎる、と思うのもやっぱり愚痴か、愚痴か知らねど情な過ぎるが、言わず語らず諭された上人様のあのお言葉の真実《まこと》のところを味わえば、あくまでお慈悲の深いのが五臓六
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