》に命《いいつ》けらるるにきまったこと、よしまたのっそりに命けらるればとて彼奴《あれめ》にできる仕事でもなく、彼奴の下に立って働く者もあるまいなれば見事でかし損ずるは眼に見えたこととのよしなれど、早く良人《うちのひと》がいよいよ御用|命《いいつ》かったと笑い顔して帰って来られればよい、類の少い仕事だけに是非して見たい受け合って見たい、欲徳はどうでも関《かま》わぬ、谷中感応寺《やなかかんおうじ》の五重塔は川越《かわごえ》の源太《げんた》が作りおった、ああよくでかした感心なと云われて見たいと面白がって、いつになく職業《しょうばい》に気のはずみを打って居らるるに、もしこの仕事を他《ひと》に奪《と》られたらどのように腹を立てらるるか肝癪《かんしゃく》を起さるるか知れず、それも道理であって見れば傍《わき》から妾《わたし》の慰めようもないわけ、ああなんにせよめでとう早く帰って来られればよいと、口には出さねど女房気質、今朝|背面《うしろ》からわが縫いし羽織打ち掛け着せて出したる男の上を気遣うところへ、表の骨太格子《ほねぶとごうし》手あらく開《あ》けて、姉御、兄貴は、なに感応寺へ、仕方がない、それでは
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