》とり出《いだ》し、銀ほど光れる長五徳《ながごとく》を磨《みが》きおとし[#「おとし」に傍点]を拭《ふ》き銅壺《どうこ》の蓋《ふた》まで奇麗にして、さて南部霰地《なんぶあられ》の大鉄瓶《おおてつびん》をちゃんとかけし後、石尊様詣りのついでに箱根へ寄って来しものが姉御《あねご》へ御土産《おみや》とくれたらしき寄木細工の小繊麗《こぎよう》なる煙草箱《たばこばこ》を、右の手に持った鼈甲管《べっこうらお》の煙管《きせる》で引き寄せ、長閑《のどか》に一服吸うて線香の煙るように緩々《ゆるゆる》と煙りを噴《は》き出《いだ》し、思わず知らず太息《ためいき》吐《つ》いて、多分は良人《うち》の手に入るであろうが憎いのっそり[#「のっそり」に傍点]めが対《むこ》うへ廻《まわ》り、去年使うてやった恩も忘れ上人様に胡麻摺《ごます》り込んで、たってこん度の仕事をしょうと身の分も知らずに願いを上げたとやら、清吉《せいきち》の話しでは上人様に依怙贔屓《えこひいき》のお情《こころ》はあっても、名さえ響かぬのっそりに大切《だいじ》の仕事を任せらるることは檀家方の手前寄進者方の手前もむつかしかろうなれば、大丈夫|此方《こち
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