を受けております源太様の仕事を奪《と》りたくはおもいませぬが、ああ賢い人は羨ましい、一生一度百年一度の好い仕事を源太様はさるる、死んでも立派に名を残さるる、ああ羨ましい羨ましい、大工となって生きている生き甲斐もあらるるというもの、それに引き代えこの十兵衛は、鑿《のみ》手斧《ちょうな》もっては源太様にだとて誰にだとて、打つ墨縄の曲ることはあれ万が一にも後れを取るようなことは必ず必ずないと思えど、年が年中長屋の羽目板《はめ》の繕いやら馬小屋|箱溝《はこどぶ》の数仕事、天道様が知恵というものを我《おれ》には賜《くだ》さらないゆえ仕方がないと諦《あきら》めて諦めても、拙《まず》い奴らが宮を作り堂を受け負い、見るものの眼から見れば建てさせた人が気の毒なほどのものを築造《こしら》えたを見るたびごとに、内々自分の不運を泣きますわ、お上人様、時々は口惜しくて技倆《うで》もない癖に知恵ばかり達者な奴が憎くもなりまするわ、お上人様、源太様は羨ましい、知恵も達者なれば手腕《うで》も達者、ああ羨ましい仕事をなさるか、我《おれ》はよ、源太様はよ、情ないこの我《おれ》はよと、羨ましいがつい高じて女房《かか》にも口
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