急《せ》かずに、老衲をば朋友《ともだち》同様におもうて話すがよい、とあくまで慈《やさ》しき注意《こころぞえ》。十兵衛|脆《もろ》くも梟《ふくろ》と常々悪口受くる銅鈴眼《すずまなこ》にはや涙を浮めて、はい、はい、はいありがとうござりまする、思い詰めて参上《まい》りました、その五重の塔を、こういう野郎でござります、御覧の通り、のっそり十兵衛と口惜《くや》しい諢名《あだな》をつけられて居る奴《やっこ》でござりまする、しかしお上人様、真実《ほんと》でござりまする、工事《しごと》は下手ではござりませぬ、知っております私《わたく》しは馬鹿でござります、馬鹿にされております、意気地のない奴《やつ》でござります、虚誕《うそ》はなかなか申しませぬ、お上人様、大工はできます、大隅流《おおすみりゅう》は童児《こども》の時から、後藤《ごとう》立川《たてかわ》二ツの流義も合点《がてん》致しておりまする、させて、五重塔の仕事を私にさせていただきたい、それで参上《まい》りました、川越の源太様が積りをしたとは五六日前聞きました、それから私は寝ませぬわ、お上人様、五重塔は百年に一度一生に一度建つものではござりませぬ、恩
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