り騒ぐところへ、後園の花|二枝《にし》三枝|剪《はさ》んで床の眺めにせんと、境内《けいだい》あちこち逍遙《しょうよう》されし朗円上人、木蘭色《もくらんじき》の無垢《むく》を着て左の手に女郎花《おみなえし》桔梗《ききょう》、右の手に朱塗《しゅ》の把《にぎ》りの鋏《はさみ》持たせられしまま、図らずここに来かかりたまいぬ。
其六
何事に罵り騒ぐぞ、と上人が下したまう鶴《つる》の一声のお言葉に群雀の輩《ともがら》鳴りを歇《とど》めて、振り上げし拳《こぶし》を蔵《かく》すに地《ところ》なく、禅僧の問答にありやありやと云いかけしまま一喝されて腰の折《くだ》けたるごとき風情なるもあり、捲《まく》り縮めたる袖を体裁《きまり》悪げに下してこそこそと人の後ろに隠るるもあり。天を仰げる鼻の孔《あな》より火煙も噴《ふ》くべき驕慢《きょうまん》の怒りに意気|昂《たか》ぶりし為右衛門も、少しは慚《は》じてや首をたれ掌《て》を揉《も》みながら、自己《おのれ》が発頭人なるに是非なく、ありし次第をわが田に水引き水引き申し出づれば、痩せ皺びたる顔に深く長く痕《つ》いたる法令の皺溝《すじ》をひとしお深めて、
前へ
次へ
全143ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング