は俗用にお関《かか》わりはなされぬわ、願いというは何か知らねど云うて見よ、次第によりては我が取り計ろうてやる、とさもさも万事心得た用人めかせる才物ぶり。それを無頓着《むとんじゃく》の男の質朴《ぶきよう》にも突き放して、いえ、ありがとうはござりますれど上人様に直々《じきじき》でのうては、申しても役に立ちませぬこと、どうぞただお取次ぎを願いまする、と此方《こち》の心が醇粋《いっぽんぎ》なれば先方《さき》の気に触《さわ》る言葉とも斟酌《しんしゃく》せず推し返し言えば、為右衛門腹には我を頼まぬが憎くて慍《いか》りを含み、理《わけ》のわからぬ男じゃの、上人様は汝《きさま》ごとき職人らに耳は仮《か》したまわぬというに、取り次いでも無益《むやく》なれば我が計ろうて得させんと、甘く遇《あしら》えばつけ上る言い分、もはや何もかも聞いてやらぬ、帰れ帰れ、と小人の常態《つね》とて語気たちまち粗暴《あら》くなり、膠《にべ》なく言い捨て立たんとするにあわてし十兵衛、ではござりましょうなれど、と半分いう間なく、うるさい、喧《やかま》しいと打ち消され、奥の方に入られてしもうて茫然《ぼんやり》と土間に突っ立ったまま掌
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