》しき玄関前にさしかかり、お頼申《たのもう》すと二三度いえば鼠衣《ねずみごろも》の青黛頭《せいたいあたま》、可愛《かわゆ》らしき小坊主の、おおと答えて障子引き開《あ》けしが、応接に慣れたるものの眼捷《めばや》く人を見て、敷台までも下りず突っ立ちながら、用事なら庫裡《くり》の方へ廻れ、と情《つれ》なく云い捨てて障子ぴっしゃり、後はどこやらの樹頭《き》に啼《な》く鵯《ひよ》の声ばかりして音もなく響きもなし。なるほどと独《ひと》り言《ごと》しつつ十兵衛庫裡にまわりてまた案内を請えば、用人為右衛門|仔細《しさい》らしき理屈顔して立ち出で、見なれぬ棟梁殿、いずくより何の用事で見えられた、と衣服《みなり》の粗末なるにはや侮《あなど》り軽《かろ》しめた言葉|遣《づか》い、十兵衛さらに気にもとめず、野生《わたくし》は大工の十兵衛と申すもの、上人様の御眼にかかりお願いをいたしたいことのあってまいりました、どうぞお取次ぎ下されまし、と首《こうべ》を低くして頼み入るに、為右衛門じろりと十兵衛が垢臭《あかくさ》き頭上《あたま》より白の鼻緒の鼠色になった草履はき居る足先まで睨《ね》め下し、ならぬ、ならぬ、上人様
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