ああ心配に頭脳《あたま》の痛む、またこれが知れたらば女の要《い》らぬ無益《むだ》心配、それゆえいつも身体の弱いと、有情《やさし》くて無理な叱言《こごと》を受くるであろう、もう止めましょ止めましょ、ああ痛、と薄痘痕《うすいも》のある蒼《あお》い顔を蹙《しか》めながら即効紙の貼《は》ってある左右の顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》を、縫い物捨てて両手で圧《おさ》える女の、齢は二十五六、眼鼻立ちも醜からねど美味《うま》きもの食わぬに膩気《あぶらけ》少く肌理《きめ》荒れたる態《さま》あわれにて、襤褸衣服《ぼろぎもの》にそそけ髪ますます悲しき風情なるが、つくづく独《ひと》り歎ずる時しも、台所の劃《しき》りの破れ障子がらりと開けて、母様これを見てくれ、と猪之が云うにびっくりして、汝《そなた》はいつからそこにいた、と云いながら見れば、四分板六分板の切れ端を積んで現然《ありあり》と真似び建てたる五重塔、思わず母親涙になって、おお好い児ぞと声曇らし、いきなり猪之に抱《いだ》きつきぬ。

     其四

 当時に有名《なうて》の番匠川越の源太が受け負いて作りなしたる谷中感応寺の、どこ
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