がゆ》さ恨めしさ、蔭《かげ》でやきもきと妾《わたし》が思うには似ず平気なが憎らしいほどなりしが、今度はまたどうしたことか感応寺に五重塔の建つということ聞くや否や、急にむらむらとその仕事を是非する気になって、恩のある親方様が望まるるをも関わず胴欲に、このような身代の身に引き受きょうとは、ちとえら過ぎると連れ添う妾《わたし》でさえ思うものを、他人はなんと噂《うわ》さするであろう、ましてや親方様は定めし憎いのっそりめと怒ってござろう、お吉様はなおさら義理知らずの奴めと恨んでござろう、今日は大抵どちらにか任すと一言上人様のお定《き》めなさるはずとて、今朝出て行かれしがまだ帰られず、どうか今度の仕事だけはあれほど吾夫は望んで居らるるとも此方《こち》は分に応ぜず、親方には義理もありかたがた親方の方に上人様の任さるればよいと思うような気持もするし、また親方様の大気にて別段怒りもなさらずば、吾夫にさせて見事成就させたいような気持もする、ええ気の揉《も》める、どうなることか、とても良人《うち》にはお任せなさるまいがもしもいよいよ吾夫のすることになったら、どのようにまあ親方様お吉様の腹立てらるるか知れぬ、
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