眼にかかりましたがどちらへかお出かけでござりまするか、と忙《せわ》しげに老婆《ばば》が問うに源太|軽《かろ》く会釈して、まあよいわ、遠慮せずと此方《こち》へはいりゃれ、わざわざ夜道を拾うて来たは何ぞ急の用か、聴いてあげよう、と立ち戻れば、ハイハイ、ありがとうござります、お出かけのところを済みません、御免下さいまし、ハイハイ、と云いながら後に随《つ》いて格子戸くぐり、寒かったろうによう出て来たの、あいにくお吉もいないで関《かま》うこともできぬが、縮こまっていずとずっと前へ進《で》て火にでもあたるがよい、と親切に云うてくるる源太が言葉にいよいよ身を堅くして縮こまり、お構い下さいましては恐れ入りまする、ハイハイ、懐炉を入れておりますればこれで恰好《かっこう》でござりまする、と意久地なく落ちかかる水涕《みずばな》を洲の立った半天の袖で拭《ふ》きながらはるか下って入口近きところに蹲《うずく》まり、何やら云い出したそうな素振り、源太早くも大方察して老婆《としより》の心の中さぞかしと気の毒さ堪《たま》らず、よけいなことし出《いだ》して我に肝煎《きもい》らせし清吉のお先走りを罵《ののし》り懲らして、当
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