《うち》にいよいよ不平は懐《いだ》けど露塵《つゆちり》ほども外には出さず、義理の挨拶《あいさつ》見事に済ましてすぐその足を感応寺に向け、上人のお目通り願い、一応|自己《おのれ》が隷属《みうち》の者の不埒《ふらち》をお謝罪《わび》し、わが家に帰りて、いざこれよりは鋭次に会い、その時清を押えくれたる礼をも演《の》べつその時の景状《ようす》をも聞きつ、また一ツにはさんざん清を罵《ののし》り叱って以後《こののち》わが家に出入り無用と云いつけくれんと立ち出でかけ、お吉のいぬを不審してどこへと問えば、どちらへかちょと行て来るとてお出でになりました、と何食わぬ顔で婢《おんな》の答え、口禁《くちど》めされてなりとは知らねば、おおそうか、よしよし、我《おれ》は火の玉の兄きがところへ遊びに行たとお吉帰らば云うておけ、と草履《ぞうり》つっかけ出合いがしら、胡麻竹《ごまだけ》の杖《つえ》とぼとぼと焼痕《やけこげ》のある提灯《ちょうちん》片手、老いの歩みの見る目笑止にへの字なりして此方《こち》へ来る婆《ばば》。おお清の母親《おふくろ》ではないか。あ、親方様でしたか、

     其二十八

 ああ好いところでお
前へ 次へ
全143ページ中111ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング