れ姿を眼にするよりも一寸のわざくれに摘んで取つて其清香秀色を口にするのもさして咎めるにも及ぶまい。既に楚辞にも、秋菊の落英を餐《く》ふ、とある位だ。ところが、此の落英の落の字が厄介で、菊ははら/\と落ちるものではないから、落は先日某君から質問された「チヌル」の事に関係のある落成の落の字と見なして、落英は即ち咲いた花だといふ説もあるが、何だかおちつきの悪い解ではある。菊の花の落ちる落ちぬについては、後に王安石と蘇東坡との間に軽い争があつた談などもあるが、話の横道入りを避けて今は抛って置く。さて、たべる菊は普通は黄の千葉又は万葉の小菊で、料理菊と云つて市場にも出て来るのであるが、それは下物《さかな》のツマにしか用ゐられぬ、あまり褒めたものではない。稀に三杯酢、二杯酢などの※[#「草冠/(酉+隹)/れんが」、第3水準1−91−44、27−2]物《ひたしもの》として、小皿、小猪口に単用されることもあるが、それにしても話題になるほどではない。たゞし菊には元来甘いと苦いとの二種あること瓢《ひさご》の如くであつて、又|恰《あたか》も瓢の形の良いのには苦性《にがだち》のものが多くて、酒を入れると古くな
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