つてゐても少し苦味を帯びさせるが如く、菊も兎角花の大にして肉厚く色好いものには苦いのが多い。といつて甘い菊にも類が多いから、普通料理菊の如くに平々凡々の何の奇無きもののみではない。秋田の佐々木氏から得た臙脂色の菊の管状弁の長さ六寸に余つて肉の厚いものなどは、実に美観でもあり美味でもあつた。菊、※[#「草冠/意」、読みは「よく」、第3水準1−91−30、27−9]の二字ある位であるから、其他にも大菊の中で甘いものが折々ある。此等の菊は梅の肉で保たせると百日にも余つて其の色香を保つことが出来るものであるから、我等の如き富まぬ者の寒厨からも随時に一寸おもしろい下物を得られるのである。花で味のよいものは何と云つても牡丹であるが、これは力よく之を得るに及びやすい訳にゆかぬ。ゆふ菅《すげ》の花も微甘でもあり、微気の愛すべきものがあつて宜いが、併《しか》し要するに山人のかすけき野饌である。甘菊の大なるものは実に嬉しいものである。一坪の庭も無い家へ急に移つた時に一切の菊を失つて終つてゥら、今はもう自分は一株の甘菊をも有たぬが、秋更けて酒うまき時、今はたゞ料理菊でもない抛つたらかし咲かせの白き小菊の一二
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