にすら通有な、礼儀があり契約があり、若し之に背けば厳重な制裁を蒙る。まして真の侠客肌の親分子分の情誼などは実に篤いもので、又意気相許した親分の為とあらば如何なる事にも身を投ずることを辞せぬ。二十年も前であつたらう、桃川燕林が上野広小路の吹ぬきといふ寄席で次郎長の伝を演じた。すると毎日のやうに其の高座の前に、一見恐ろしい容貌をした男が六七人来て聞いて居る。怪んで之を質して見ると、夫れは次郎長の子分共で、若し少しでも間違つた事を云つたなら、直ぐ高座へ躍り上つて燕林を責め糺す気であつたらしいが、燕林の調査が行届いて居て余り間違ひの無いのに感服して帰つて行つたといふ事があつた位である。
尤も関東ばかりが侠客が跋扈したと云ふでは無い、京大阪にも侠客はある。又た所謂たゞの博徒の種類で侠客と称するには足らぬか知らぬが、十年も前には女の親分さへ山形にあつた位で、福島以北にも可なりの博徒はあつたらしいが、何を云つても関東が一番盛んであつた。今日講談師が地方を廻ると、やゝもすれば其土地の古侠客の話を望まれる。若し有名の親分の話を知らぬ者ならば直ぐ追出され兼ねもしない。所で講談師も商売柄、能く種※[#「※
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