ためにちと脚《あし》が草臥《くたびれ》ているからか、腰《こし》を掛《か》けるには少し高過ぎる椽の上へ無理に腰を載《の》せて、それがために地に届かない両脚をぶらぶらと動かしながら、ちょうどその下の日当りに寐《ね》ている大《おおき》な白犬の頭を、ちょっと踏んで軽《かろ》く蹴《け》るように触《さわ》って見たりしている。日の光はちょうど二人の胸あたりから下の方に当っているが、日ざしに近くいるせいだか二人とも顔が薄《うっす》りと紅くなって、特《こと》に源三は美しく見える。
「よっぽどって、そうさ五日《いつか》六日《むいか》来なかったばかりだ。」
と源三はお浪の言葉に穏《おだ》やかに答えた。
「そんなものだったかネ、何だか大変長い間見えなかったように思ったよ。そして今日《きょう》はまた定《きま》りのお酒買いかネ。」
「ああそうさ、厭《いや》になっちまうよ。五六日は身体《からだ》が悪いって癇癪《かんしゃく》ばかり起してネ、おいらを打《ぶ》ったり擲《たた》いたりした代りにゃあ酒買いのお使いはせずに済《す》んだが、もう癒《なお》ったからまた今日《きょう》っからは毎日だろう。それもいいけれど、片道一里もあ
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