》の財産《しんだい》よしであるが、不幸《ふしあわせ》に家族《ひと》が少くって今ではお浪とその母とばかりになっているので、召使《めしつかい》も居れば傭《やとい》の男女《おとこおんな》も出入《ではい》りするから朝夕などは賑《にぎや》かであるが、昼はそれぞれ働きに出してあるので、お浪の母が残っているばかりで至って閑寂《しずか》である。特《こと》に今、母はお浪の源三を連れて帰って来たのを見て、わたしはちょいと見廻《みまわ》って来るからと云って、少し離《はな》れたところに建ててある養蚕所《ようさんじょ》を監視《みまわり》に出て行ったので、この広い家に年のいかないもの二人|限《きり》であるが、そこは巡査《おまわり》さんも月に何度かしか回って来ないほどの山間《やまあい》の片田舎《かたいなか》だけに長閑《のんき》なもので、二人は何の気も無く遊んでいるのである。が、上れとも云わなければ茶一つ出そうともしない代り、自分も付合って家へ上りもしないでいるのは、一つはお浪の心安立《こころやすだて》からでもあろうが、やはりまだ大人《おとな》びぬ田舎娘の素樸《きじ》なところからであろう。
源三の方は道を歩いて来た
前へ
次へ
全40ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング