るところをたった二合ずつ買いに遣《よこ》されて、そして気むずかしい日にあ、こんなに量りが悪いはずはねえ、大方《おおかた》途中《とちゅう》で飲んだろう、道理で顔が赤いようだなんて無理を云って打撲《ぶんなぐ》るんだもの、ほんとに口措《くやし》くってなりやしない。」
「ほんとに嫌《いや》な人だっちゃない。あら、お前の頸《くび》のところに細長い痣《あざ》がついているよ。いつ打《ぶ》たれたのだい、痛そうだねえ。」
と云いながら傍《そば》へ寄って、源三の衣領《えり》を寛《くつろ》げて奇麗《きれい》な指で触ってみると、源三はくすぐったいと云ったように頸を縮《すく》めて障《さえぎ》りながら、
「お止《よし》よ。今じゃあ痛くもなんともないが、打たれた時にあ痛かったよ。だって布袋竹《ほていちく》の釣竿《つりざお》のよく撓《しな》う奴《やつ》でもってピューッと一ツやられたのだもの。一昨々日《さきおととい》のことだったがね、生《なま》の魚が食べたいから釣って来いと命令《いいつ》けられたのだよ。風が吹《ふ》いて騒《ざわ》ついた厭な日だったもの、釣れないだろうとは思ったがね、愚図愚図《ぐずぐず》していると叱《しか
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