は暁天方《あかつきがた》になってトロリとした。さて目※[#「目へん+屯」、補助4556、78−5]《まどろ》む間も無く朝早く目が覚《さ》めると、平生《いつも》の通り朝食《あさめし》の仕度にと掛ったが、その間々《ひまひま》にそろりそろりと雁坂越の準備《ようい》をはじめて、重たいほどに腫《は》れた我が顔の心地|悪《あ》しさをも苦にぜず、団飯《むすび》から脚《あし》ごしらえの仕度まですっかりして後、叔母にも朝食をさせ、自分も十分に喫《きっ》し、それから隙《すき》を見て飄然《ふい》と出てしまった。
家を出て二三町歩いてから持って出た脚絆《きゃはん》を締《し》め、団飯《むすび》の風呂敷包《ふろしきづつ》みをおのが手作りの穿替《はきか》えの草鞋《わらじ》と共に頸《くび》にかけて背負い、腰の周囲《まわり》を軽くして、一ト筋の手拭《てぬぐい》は頬《ほお》かぶり、一ト筋の手拭は左の手首に縛《くく》しつけ、内懐《うちぶところ》にはお浪にかつてもらった木綿財布《もめんざいふ》に、いろいろの交《まじ》り銭《ぜに》の一円少し余《よ》を入れたのを確《しか》と納め、両の手は全空《まるあき》にしておいて、さて柴刈鎌
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