《さかや》の挨拶《あいさつ》を聞いて、もしや叱責《こごと》の種子《たね》にはなるまいかと鬼胎《おそれ》を抱《いだ》くこと大方ならず、かつまた塩《しお》文※[#「遙」の「しんにゅう」が「魚」、第4水準2−93−69、76−5]《とび》を買って来いという命令《いいつけ》ではあったが、それが無かったのでその代りとして勧められた塩鯖《しおさば》を買ったについても一ト方ならぬ鬼胎《おそれ》を抱いた源三は、びくびくもので家の敷居《しきい》を跨《また》いでこの経由《わけ》を話すと、叔母の顔は見る見る恐ろしくなって、その塩鯖の※[#「竹かんむり+擇」、補助5092、76−8]包《かわづつ》みを手にするや否《いな》やそれでもって散々《さんざん》に源三を打《ぶ》った。
 何で打たれても打たれて佳いというものがあるはずは無いが、火を見ぬ塩魚の悪腥《わるなまぐさ》い――まして山里の日増しものの塩鯖の腐《くさ》りかかったような――奴《やつ》の※[#「竹かんむり+擇」、補助5092、76−10]包みで、力任せに眼とも云わず鼻とも云わず打たれるのだから堪《こら》えられた訳のものでは無い。まず※[#「竹かんむり+擇」
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