も頼《たの》むまいというようなのはかえって源三が性質の中のある一角が、境遇《きょうぐう》のために激《げき》せられて他の部よりも比較的《ひかくてき》に発展したものであろうか。
お浪は今明らかに源三の本心を読んで取ったので、これほどに思っている自分親子をも胸の奥《おく》の奥では袖《そで》にしている源三のその心強さが怨《うら》めしくもあり、また自分が源三に隔《へだ》てがましく思われているのが悲しくもありするところから、悲痛の色を眉目《びもく》の間《かん》に浮《うか》めて、
「じゃあ吾家《うち》の母様《おっかさん》の世話にもなるまいというつもりかエ。まあ怖しい心持におなりだネエ、そんなに強《きつ》くならないでもよさそうなものを。そんなおまえじゃあ甲府の方へは出すまいとわたし達がしていても、雁坂を越えて東京へも行きかねはしない、吃驚《びっくり》するほどの意地っ張りにおなりだから。」
と云った。すると源三はこれを聞いて愕然《ぎょっ》として、秘せぬ不安の色をおのずから見せた。というものは、お浪が云った語《ことば》は偶然《ぐうぜん》であったのだが、源三は甲府へ逃げ出そうとして意《こころ》を遂《と》げ
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