」
と自分の思わくとお浪の思わくとの異《ちが》っているのを悲む色を面《おもて》に現しつつ、正直にしかも剛情《ごうじょう》に云った。その面貌《かおつき》はまるで小児《こども》らしいところの無い、大人《おとな》びきった寂《さ》びきったものであった。
お浪はこの自己《おのれ》を恃《たの》む心のみ強い言《ことば》を聞いて、驚《おどろ》いて目を瞠《みは》って、
「一人でって、どう一人でもって?」
と問い返したが返辞が無かったので、すぐとまた、
「じゃあ誰の世話にもならないでというんだネ。」
と質《ただ》すと、源三は術《じゅつ》無《なさ》そうに、かつは憐愍《あわれみ》と宥恕《ゆるし》とを乞《こ》うような面《かお》をして微《かすか》に点頭《うなずい》た。源三の腹の中は秘《かく》しきれなくなって、ここに至ってその継子根性《ままここんじょう》の本相《ほんしょう》を現してしまった。しかし腹の底にはこういう僻《ひが》みを持っていても、人の好意に負《そむ》くことは甚《ひど》く心苦しく思っているのだ。これはこの源三が優しい性質《うまれつき》の一角と云おうか、いやこれがこの源三の本来の美しい性質で、いかなる人を
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