思ったからそう云ったのさ。浪ちゃんだってあの禽のように自由だったら嬉しいだろうじゃあないか。」
と云うと、お浪はまた新に涙ぐんで其言《それ》には答えず、
「それ、その通りだもの。おまえにやまだ吾家《うち》の母《おっか》さんだのわたしだのが、どんなにおまえのためを思っているかが解らないのかネエ。真実《ほんと》におまえは自分|勝手《がって》ばかり考えていて、他《ひと》の親切というものは無にしても関《かま》わないというのだネ。おおかたわたし達も誰も居なかったら自由自在だっておまえはお悦《よろこ》びだろうが、あんまりそりゃあ気随《きずい》過《す》ぎるよ。吾家《うち》の母様《おっかさん》もおまえのことには大層心配をしていらしって、も少しするとおまえのところの叔父さんにちゃんと談をなすって、何でもおまえのために悪くないようにしてあげようって云っていらっしゃるのだから、辛いだろうがそんな心持を出さないで、少しの間辛抱おしでなくちゃあ済まないわ。」
としみじみと云うその真情《まごころ》に誘《さそ》い込まれて、源三もホロリとはなりながらなお、
「だって、おいらあ男の児だもの、やっぱり一人で出世したいや。
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