きになってあるから、いくらお前が甲府の方へ出ようと思ったりなんぞしてもそうはいきません。おまえの居る方から甲府の方へは笛吹川の両岸のほかには路は無い、その路にはおまえに無暗なことをさせないようにと思って見ている人が一人や二人じゃあ無いから、おまえの思うようにあなりあしないヨ。これほどに吾家《うち》の母様《おっかさん》の為《な》さるのも、おまえのためにいいようにと思っていらっしゃるからだとお話があったわ。それだのに禽《とり》を見て独語《ひとりごと》を云ったりなんぞして、あんまりだよ。」
と捲《まく》し立ててなおお浪の言わんとするを抑《おさ》えつけて、
「いいよ、そんなに云わなくったって分っているよ。おいらあ無暗に逃げ出したりなんぞしようと思ってやしないというのに。」
と遮《さえぎ》る。
「おや、まだ強情《ごうじょう》に虚言《うそ》をお吐《つ》きだよ。それほど分っているならなぜ禽はいいなあと云ったり、だけれどもネと云って後の言葉を云えなかったりするのだエ。」
と追窮《ついきゅう》する。追窮されても窘《くるし》まぬ源三は、
「そりゃあただおいらあ、自由自在になっていたら嬉《うれ》しいだろうと
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