あにそうじゃないけれども、……」
「それ、お見、そうじゃあないけれどもってお云いでも、後の語《ことば》は出ないじゃあないか。」
「…………」
「ほら、ほら、閊《つか》えてしまって云えないじゃあないか。おまえはわたし達にあ秘《かく》していても腹《おなか》ん中じゃあ、いつか一度は、誰の世話にもならないで一人で立派なものになろうと思っているのだネ。イイエ頭を掉《ふ》ってもそうなんだよ。」
「ほんとにそうじゃないって云うのに。」
「イイエ、何と云ってもいけないよ。わたしはチャーンと知っているよ。それじゃあおまえあんまりというものだよ、何もわたし達あおまえの叔母《おば》さんに告口《いつけぐち》でもしやしまいし、そんなに秘《かく》し立《だて》をしなくってもいいじゃあないか。先《せん》の内はこんなおまえじゃあなかったけれどだんだんに酷い人におなりだネエ、黙々《だんまり》で自分の思い通りを押通《おしとお》そうとお思いのだもの、ほんとにおまえは人が悪い、怖《こわ》いような人におなりだよ。でもおあいにくさまだが吾家《うち》の母様《おっかさん》はおまえの心持を見通していらしって、いろいろな人にそう云っておお
前へ 次へ
全40ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング