※[#二の字点、1−2−22]と臨んで、洋燈を動かしては光りの強いところを観ようとする部分※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]に移しながら看た。さうし無ければ極めて繊細な画が古び煤けて居るのだから、動※[#二の字点、1−2−22]もすれば看て取ることが出来なかつたのである。
 画は美《うる》はしい大江に臨んだ富麗の都の一部を描いたものであつた。図の上半部を成してゐる江《え》の彼方《むかふ》には翠色《すゐしよく》悦ぶべき遠山が見えてゐる、其手前には丘陵が起伏してゐる、其間に層塔もあれば高閤《かうかふ》もあり、黒ずんだ欝樹が蔽ふた岨もあれば、明るい花に埋められた谷もあつて、それからずつと岸の方は平らに開けて、酒楼の綺麗なのも幾戸かあり、士女老幼、騎馬の人、閑歩の人、生計にいそしんで居る負販の人、種※[#二の字点、1−2−22]雑多の人※[#二の字点、1−2−22]が蟻ほどに小さく見えてゐる。筆はたゞ心持で動いてゐるだけで、勿論其の委曲が画《か》けて居る訳では無いが、それでもおのづからに各人の姿態や心情が想ひ知られる。酒楼の下の岸には画舫《ぐわはう》もある、舫中の人な
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