ものだ、と放下《はうげ》して仕舞つて、又そこらを見ると、床の間では無い、一方の七八尺ばかりの広い壁になつてゐるところに、其壁を何程《いくら》も余さない位な大きな古びた画の軸がピタリと懸つてゐる。何だか細かい線で描いてある横物で、打見たところはモヤ/\と煙つて居るやうなばかりだ。紅や緑や青や種※[#二の字点、1−2−22]《いろ/\》の彩色が使つてあるやうだが、図が何だとはサッパリ読めない。多分有り勝な涅槃像か何かだらうと思つた。が、看るとも無しに薄い洋燈の光に朦朧としてゐる其の画面に眼を遣つて居ると、何だか非常に綿密に楼閣だの民家だの樹だの水だの遠山だの人物だのが描いてあるやうなので、とう/\立上つて近くへ行つて観た。すると是は古くなつて処※[#二の字点、1−2−22]汚れたり損じたりしては居るが、中※[#二の字点、1−2−22]叮嚀に描かれたもので、巧拙は分らぬけれども、かつて仇十州《きうじつしう》の画だとか教へられて看たことの有るものに肖《に》た画風で、何だか知らぬが大層な骨折から出来てゐるものであることは一目に明らかであつた。そこで特《ことさら》に洋燈を取つて左の手にして其図に近
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