に小さく見えている。筆はただ心持で動いているだけで、勿論その委曲が画《か》けている訳ではないが、それでもおのずからに各人の姿態や心情が想い知られる。酒楼の下の岸には画舫《がほう》もある、舫中の人などは胡麻《ごま》半粒ほどであるが、やはり様子が分明に見える。大江の上には帆走《ほばし》っているやや大きい船もあれば、篠《ささ》の葉形の漁舟《ぎょしゅう》もあって、漁人の釣《つり》しているらしい様子も分る。光を移してこちらの岸を見ると、こちらの右の方には大きな宮殿|様《よう》の建物があって、玉樹※[#「王+其」、第3水準1−88−8]花《ぎょくじゅきか》とでもいいたい美しい樹や花が点綴《てんてい》してあり、殿下の庭|様《よう》のところには朱欄曲※[#二の字点、1−2−22]《しゅらんきょくきょく》と地を劃《かく》して、欄中には奇石もあれば立派な園花《えんか》もあり、人の愛観を待つさまざまの美しい禽《とり》などもいる。段※[#二の字点、1−2−22]と左へ燈光《ともしび》を移すと、大中小それぞれの民家があり、老人《としより》や若いものや、蔬菜《そさい》を荷《にな》っているものもあれば、蓋《かさ》を
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