は無理でもなかった。
老僧は晩成先生が何を思っていようとも一切無関心であった。
□□さん、サア洋燈《ランプ》を持ってあちらへ行って勝手に休まっしゃい。押入《おしいれ》の中に何かあろうから引出して纏《まと》いなさい、まだ三時過ぎ位のものであろうから。
ト老僧は奥を指さして極めて物静《ものしずか》に優しくいってくれた。大噐氏は自然に叩頭《おじぎ》をさせられて、その言葉通りになるよりほかはなかった。洋燈《ランプ》を手にしてオズオズ立上《たちあが》った。あとはまた真黒闇《まっくらやみ》になるのだが、そんな事をとかくいうことはかえって余計な失礼の事のように思えたので、そのままに坐を立って、襖《ふすま》を明けて奥へ入った。やはり其処《そこ》は六畳敷位の狭さであった。間《あい》の襖を締切《しめき》って、そこにあった小さな机の上に洋燈《ランプ》を置き、同じくそこにあった小坐蒲団《こざぶとん》の上に身を置くと、初めて安堵《あんど》して我に返ったような気がした。同時に寒さが甚《ひど》く身に染《し》みて胴顫《どうぶるい》がした。そして何だかがっかりしたが、漸《ようや》く落《おち》ついて来ると、□□さんと
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