その後は上流に巨材などはありませんから、水は度※[#二の字点、1−2−22]《たびたび》出ても大したこともなく、出るのが早い代りに退《ひ》くのも早くて、直《じき》に翌日《あくるひ》は何の事もなくなるのです。それで昨日《きのう》からの雨で渓川はもう開きましたが、水はどの位で止まるか予想は出来ません。しかし私どもは慣れてもおりますし、此処《ここ》を守る身ですから逃げる気もありませんが、貴方《あなた》には少くとも危険――はありますまいが余計な御心配はさせたくありません。幸《さいわい》なことにはこの庭の左方《ひだり》の高みの、あの小さな滝の落ちる小山の上は絶対に安全地で、そこに当寺の隠居所の草庵があります。そこへ今の内に移っていて頂きたいのです。わたくしが直《すぐ》に御案内致します、手早く御支度《おしたく》をなすって頂きます。
ト末の方はもはや命令的に、早口に能弁《のうべん》にまくし立てた。その後《あと》について和尚は例の小さな円い眼に力を入れて※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]開《そうかい》しながら、
膝まで水が来るようだと歩けんからノ、早く御身繕《おみづくろ》いなすって。
と追立
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