。それでも是非頼むという訳だったろう、そこで氏郷は条件を付けることにした。今の人なら何か自分に有利な条件を提出して要求するところだが、此時分の人だから自己利益を本として釣鉤《つりばり》の※[#「金+幾」、第4水準2−91−39]《かかり》のようなイヤなものを出しはしなかった。ただ与えられた任務を立派に遂行し得るために其便宜を与えられることを許されるように、ということであった。それは奥州鎮護の大任を全うするに付けては剛勇の武士を手下に備えなければならぬ、就ては秀吉に対して嘗《かつ》て敵対行為を取って其|忌諱《きい》に触れたために今に何《ど》の大名にも召抱えられること無くて居る浪人共をも宥免《ゆうめん》あって、自分の旗の下に置くことを許容されたい、というのであった。まことに此の時代の事であるから、一能あるものでも嘗《かつ》て秀吉に鎗先《やりさき》を向けた者の浪人したのは、たとい召抱えたく思う者があっても関白への遠慮で召抱えかねたのであった。氏郷の申出は立派なものであった。秀吉たる者之を容れぬことの有ろう筈は無い。敵対又は勘当の者なりとも召抱|扶持《ふち》等随意たるべきことという許しは与えら
前へ 次へ
全153ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング