)]手によせて摘む菜|哉《かな》と遊ばされしは、仙道七郡を去年の合戦に得たまいしよりのこと、それを今更秀吉の指図に就かりょうとは口惜しい限り、とてもの事に城を掻き寨《とりで》を構え、天下を向うに廻して争おうには、勝敗は戦の常、小勢が勝たぬには定まらず、あわよくば此方が切勝って、旗を天下に樹《た》つるに及ぼうも知れず、思召《おぼしめ》しかえさせられて然るべしと存ずる、と勇気|凜々《りんりん》四辺《あたり》を払って扇を膝に戦場|叱咤《しった》の猛者声《もさごえ》で述べ立てた。其言の当否は兎に角、斯様《こう》いう場合斯様いう人の斯様いう言葉は少くも味方の勇気を振興する功はあるもので、たとえ無用にせよ所謂《いわゆる》無用の用である。ヘタヘタと誰も彼も降参気分になって終《しま》ったのでは其後がいけない、其家の士気というものが萎靡《いび》して終う。藤五郎も其処を慮《おもんぱか》って斯様いうことを言ったものかも知れぬ、又或は真に秀吉の意に従うのが忌々《いまいま》しくて斯様云ったのかも知れぬ。政宗も藤五郎の勇気ある言を嬉しく聞いたろう。然し何等の答は発せぬ。片倉小十郎は黙然として居る。すると原田左馬介
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