な恐ろしく長い脇指を指している政宗の胸の中を優しく見やった。ここを我等から政宗の器量が小さいように看て取ってはならぬ。政宗は政宗で、寧《むし》ろ此処《ここ》が政宗の好い処である。脇指は如何に長くても脅かしにはならぬ、まして一坐の者は皆|血烟《ちけむ》りの灌頂《かんちょう》洗礼を受けている者達だ。だから其の恐ろしく長い大脇指は使うつもりで無くて何で有ろう。使うつもりである、ほんとに使うつもりであったのである。好んで此を使おうようは無いが、主人の挨拶、相手の出方、罷《まか》り間違ったら、おれはおれだ、の料簡《りょうけん》がある。何十万石も捨てる、生命《いのち》も捨てる、屈辱に生きることは嫌だ、遣りつけるまでだ、という所存があったのである。沸《たぎ》り立った魂は誰も斯様《こう》である。これが男児たる者の立派な根性で無くて何で有ろう。後に至っては政宗もずっと人が大きくなって、江戸の城中で徳川の旗本から一拳を食わせられたが、其時はもう「蟻、牡丹《ぼたん》に上る、観を害せず」で、殴った奴は蟻、自分は大きな白牡丹と納まりかえったのである。が、此時はまだ若盛り、二十六七、せいぜい二十八である。まだ泰平
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