つ》として蟠居《ばんきょ》しようや、時を得、機に乗じて、奥州駒《おうしゅうごま》の蹄《ひづめ》の下に天下を蹂躙《じゅうりん》してくれよう、というのである。これが数え年で二十四の男児である。来年卒業証書を握ったらべそ子嬢に結婚を申込もうなんと思い寐《ね》の夢魂|七三《しちさん》にへばりつくのとは些《ちと》違って居た。
 諸老臣の深根|固蔕《こたい》の議をウフンと笑ったところは政宗も実に好い器量だ、立派な火の玉だましいだ。ところが此の火の玉より今少しく大きい火の玉が西の方より滾転《こんてん》殺到して来た。命に従わず朝《ちょう》を軽《かろ》んずるというので、節刀を賜わって関白が愈々東下して北条氏を攻めるというのである。北条氏以外には政宗が有って、迂闊《うかつ》に取片付けられる者では無かった。其他は碌々《ろくろく》の輩、関白殿下の重量が十分に圧倒するに足りて居たが、北条氏は兎に角八州に手が延びて居たので、ムザとは圧倒され無かった。強盗をしたのだか何をしたのだか知らないが、黄金を沢山持って武者修行、悪く云えば漂浪して来た伊勢新九郎は、金貸をして利息を取りながら親分肌を見せては段々と自分の処へ出入
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