ば政宗方の計画の無功に帰したを笑うところであった。けれど細心の町野左近将監のような者は、殿、政宗が進じたる茶、別儀もなく御味わいこれありしか、まった飲ませられずに御[#(ン)]済ましありしか、飲ませられしか、如何に、如何に、と口々に問わぬことは無かったろう。そして皆々の面は曇ったことだろう。氏郷は、ハハハ、飲まねば卑怯《ひきょう》、余瀝《よれき》も余さず飲んだわやい、と答える。家来達はギェーッと今更ながら驚き危ぶむ。誰《た》そあれ、水を持て、と氏郷が命ずる。小ばしこい者が急に駛《はし》って馬柄杓《ばびしゃく》に水を汲んで来る。其間に氏郷は印籠《いんろう》から「西大寺」(宝心丹をいう)を取出して、其水で服用し、彼に計謀《はかりごと》あれば我にも防備《そなえ》あり、案ずるな、者共、ハハハハハハ、と大きく笑って後を向くと、西大寺の功験早く忽《たちま》ちにカッと飲んだ茶を吐いて終った。
以上は蒲生方の記するところに拠って述べたので、伊達方には勿論毒を飼うたなどという記事の有ろうようは無い。毒を用いて即座に又は陰密に人を除いて終うことは恐ろしい世には何様しても起り、且つ行われることであるから、
前へ
次へ
全153ページ中110ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング