手を出して、毒を仕込み置いたる茶を立てて氏郷に飲ませた、と云われている。毒薬には劇毒で飲むと直《じき》に死ぬのも有ろうし、程経て利くのも有ろうが、かかる場合に飲んで直に血反吐《ちへど》を出すような毒を飼おうようは無いから、仕込んだなら緩毒、少くとも二三日後になって其効をあらわす毒を仕込んだであろう。氏郷も怪しいと思わぬことは無かった。然し茶に招かれて席に参した以上は亭主が自ら点じて薦《すす》める茶を飲まぬという其様《そん》な大きな無礼無作法は有るものでないから、一団の和気を面に湛《たた》えて怡然《いぜん》として之を受け、茶味以外の味を細心に味いながら、然も御服合《おふくあい》結構の挨拶の常套《じょうとう》の讃辞まで呈して飲んで終った。そして茶事が終ったから謝意を叮嚀《ていねい》に致して、其席を辞した。氏郷の家来達も随《したが》って去った。客も主人も今日これから戦地へ赴かねばならぬのである。
氏郷は外へ出た。政宗方の眼の外へ出たところで、蒲生源左衛門以下は主人の顔を見る、氏郷も家来達の面を見たことであろう。主従は互に見交わす眼と眼に思い入れ宜しくあって、ム、ハハ、ハハ、ハハハと芝居なら
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