黒田|孝高《よしたか》は城井谷|鎮房《しずふさ》を酒席で遣りつけて居る世の中であるに。
 夜は明けた、十八日の朝となった。氏郷は約に従って政宗を訪《と》うた。氏郷は無論馬上で出かけたろうが、服装は何様であったか記されたものが無い。如何にこれから戦に赴く途中であるとしても、皆具《かいぐ》取鎧《とりよろ》うて草摺長《くさずりなが》にザックと着なした大鎧《おおよろい》で茶室へも通れまいし、又如何に茶に招かれたにしても直《ただち》に其場より修羅の衢《ちまた》に踏込もうというのに袴《はかま》肩衣《かたぎぬ》で、其肩衣の鯨も抜いたような形《なり》も変である。利久高足と云われた氏郷だから、必ずや武略では無い茶略を然るべく見せて、工合の宜い形で参会したろうが、一寸想像が出来ない。是は茶道鍛錬の人への問題に提供して置く。氏郷の家来達は勿論|甲冑《かっちゅう》で、鎗《やり》や薙刀《なぎなた》、弓、鉄砲、昨日に変ること無く犇々《ひしひし》と身を固めて主人に前駆後衛した事であろう。やがて前野に着く。政宗方は迎える。氏郷は数寄屋の路地へ潜門《くぐり》を入ると、伊達の家来はハタと扉を立てんとした。これを見ると氏郷
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