の間であるから、或は一揆方《いっきがた》の剛の者を手引して氏郷の油断に乗じて殺させ、そして政宗方の者が起って其者共を其場で切殺して口を滅して終《しま》おう、という企をしたというのならば、其の企も聊《いささ》かは有り得もす可きことになる。然《さ》も無くば政宗にしては些《ちと》智慧が足らないで手ばかり荒いように思える。但し蒲生方の言も全く想像にせよ中《あた》って居るところが有るのでは無いかと思われる所以《ゆえん》は幾箇条もあり、又ずっと後に至って政宗が氏郷に対して取った挙動で一寸|窺《うかが》えるような気のすることがある。それは後に至って言おう。此処では政宗に悪意が有った証は無いというのを公平とする。が、何にせよ此時蒲生方に取って主人氏郷が茶讌《ちゃえん》に赴くことを非常に危ぶんだことは事実で、そして其の疑懼《ぎく》の念を懐《いだ》いたのも無理ならぬことであった。氏郷が其の請を拒まないで、何程の事やあらんと懼《おそ》れ気《げ》も無しに、水深うして底を知らざる魔の淵の竜窟|鮫室《こうしつ》の中に平然として入ろうとするのは、縮むことを知らない胆ッ玉だ。織田信長は稲葉一鉄を茶室に殺そうとしたし、
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