すこ》やかに、日光樹梢を漏りてかすかに金を篩《ふる》ふところ、梭影《さえい》縱横して魚|疾《と》く駛《はし》るさま、之を視て樂んで時の經つのを忘れしむるものがある。
 菖蒲ヶ濱にも養魚場がある。これは帝室關係のもので、野趣は少い代り堂々たる設備で、養魚池もひろく、鱒も二尺位になつてゐるのが數多く見えた。釣魚もおもしろいが養魚はなほ更《さら》佳趣の多いことで、二ヶ所の養魚場を見て、自分も一閑地を得たら魚を養ひたいナアと、羨み思ふを免《まぬか》れなかつた。莊惠觀魚《さうけいくわんぎよ》の談このかた、魚を觀るのは長閑《のどか》な好い情趣のものに定つてゐるが、やがて割愛して、今度は艇を捨て、自動車で龍頭《りゆうづ》の瀧へと向つた。
 龍頭の瀧もまた別趣を有してゐる好い瀧である。水は斜《なゝめ》に巨巖の上を幾段にも錯落離合してほとばしり下るので、白龍|競《きそ》ひ下るなどと古風の形容をして喜ぶ人もあるのだが、この瀧の佳い處はたゞ瀧の末のところに安坐して、手近に樂々と見ることと、巖石の磊※[#「石+可」、166−上−15]《らいか》たるをば眼前にする所にある。
 路は男體山の西へ廻り込んで、さした
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